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アイデアル・スタンプ・モンタージュ - 僕と君と明日のつづき
ほぼ、毎日更新の創作ブログ。コンテンツは更新履歴と短編小説の連載など。

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FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』(19)

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僕と君と明日のつづき
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 当ブログは基本的にフィクションです。実在の人物、団体、事件など一切関係ありません。掲載された文章には校正が入っておりません。誤字脱字などのご指摘、その他、ご感想やリクエストなどありましたら、メールにてお送り下さい。
2008.07.29 Tue
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
告白は夕飯のあとに
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 マンガやテレビドラマの恋愛シーンで、男と女の違いを見ることができる。
 例えば、男と女の二人で好きな人の話をしてたとする。
 男が「好きな人がいるんだけど」と言った場合、大抵、隣にいる女性のことだったりする。
 しかし、女が「好きな人がいる」と言った場合、ほとんどが隣にいる男性のことではなかったりするのだ。その上、男は自分のことじゃないかと勘違いしてしまう。
 なぜだろう、といつも考える。

 きっと、それは男の方が告白をする機会が多いからではないだろうか。
 気持ちを伝える側は当然のことながら、振られたくないと思ってる。それゆえに、事前に相手の意思を探りたくて、自分の心の内を小出しにする。
 逆に、女性は告白を受ける、もしくは男に告白をさせる立場が多いから、余計なことは言わないのではないだろうか。恋の相談をするにしても、リスクを考えて気になっている相手には直接しないはずだ。
 ――と、もちろん、これは僕が考えた仮説なので、別の意見があればまた教えて欲しい。

 ともかく、その辺をわかっていながら、一瞬、ツカサが言い淀んだ時、好きな人とは自分のことじゃないかと思ってしまった。時系列で考えれば、そうではないことは明らかなのに。
「ん、もしかして、他に好きな人がいるの?」
 こくり、と無言でうなずくツカサ。
「誰?」
 んんー、と言いあぐねている。その間に、ホントに僕だったらどうしよう、とちょっとだけ期待と不安が入り混じる。
「いいじゃん、思い切って言ってみなよ」
「んっ……お兄ちゃん」
 へっ、と予想もしなかった答えに、頭の中が混乱する。
 もしかして、近親相姦とかタブーに迫る話? まあ、それが事実でも引くことはなく、別の意味で関心が湧いたりするんだけど。
「あれ、兄弟っていたんだっけ?」

 ツカサは、あっ、と言って両手を広げて横に振った。
「違う違う、えっと、本当のお兄ちゃんじゃなくて、近所のお兄ちゃんなんだけど……」
 どうやら、このマンションの近くに住んでいる大学生の男が好きだということだった。幼い頃から一緒に遊んでいて、小学生の頃から淡い恋心を抱いていたが、今年、大学に入った彼に恋人ができたみたいで、落ち込んでいるらしかった。
「そうか」
 それ以外、何とも言えなくなる。
 しょせん、女の相談なんて自分の気持ちを吐き出したいだけでアドバイスなんて求めてないのは理解しているが、初恋を引き摺るようであれば、きちんと告白して終わらせなければ、次の恋には進めないような気がした。

「気持ち、伝えてみたら?」
「えっ?」
「だから、好きだって気持ち。その人に」
 うん、と力無くうなずく。
「……だから、花火大会とかも、そいつを誘ったらいいのに」
 聞きたくない、といった様子で、首をぶんぶんと激しく振る。

 まあ、正直、僕自身が花火大会に行きたくないから言ってみただけなのだが。


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(2008/07/29(火) 06:04)

 

2008.07.25 Fri
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
水面に映るトライアングル
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 長くなるかも、と前置きして、ツカサは思い付くままその理由を話し出した。
 真夜中にマンションのロビーの裏で僕と出会ったとき、親友の女の子から恋愛について電話で相談を受けていたこと。
 次の日、最初にこの部屋に来て、かくまって欲しかったのは、ある男子に告白されて家まで来られたから。
 そして、今度の花火大会、みんなで行こうと約束をしていたが、親友の子が好きなのはその男子で、ツカサが行くことで三人の関係が気まずくなるのが怖いとのことだった。

 つまり、ツカサは親友が好きな男子に好意を寄せられている、という古典的ながら未来永劫続く、友情と愛情の狭間で揺れる三角関係に悩んでいるということだった。
「はあ、理由わかった?」
「うん、なるほどね」
「ちょっと複雑でしょ?」
 でも、答えは割とシンプルのような気がした。
 三十年以上生きてきた経験上、こういう場合は、誰もが無理をせずに自分の望むことをするのがベストだった。中途半端に友達に気遣っても、結局、誰も幸せにならないケースを何度目の当たりにしたことだろうか。
「付き合っちゃえばいいじゃん」
「へっ?」
「だから、そいつと」
「んんー」
「親友の子が気になるの?」
「うーん」
「なに、すごいヘンな奴なんだ」
 そう聞くと、ツカサは急ぎポケットから携帯を取り出した。
「写真あるけど、見る?」
 おー、見る見る、とツカサの肩越しに携帯電話の小さな液晶画面を覗く。手慣れた動作でボタンを押していくと、五人ぐらいの男子高校生がカッコつけて写ってる画像が表示された。
「だれ?」
「右隅の子」
 そいつはこの画面の中でも一番にカッコイイ男だった。斜に構えてるスタイルが生意気そうだが、顔だけをとってみればジャニーズ系っぽく整った顔立ちをしていた。
「うわっ、カッコイイじゃん」
「そお?」
「うん、良いじゃん、こいつと付き合っちゃえば」

 そう口にした途端、ツカサはくるっとこっちを向いた。
 息が触れ合うぐらいの至近距離に、ふいに焦る。
 しかし、ツカサの瞳は力無く曇っていて、彼女はその男のことが好きじゃないから悩んでいることがすぐにわかった。
 いや、好きじゃないではなく、彼女の心にはすでに別の人間が住んでいた。

 まさか、それは――。

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(2008/07/25(金) 00:00)

 

2008.07.24 Thu
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
その場でパンツを履かないで
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
「わかった、いいよ、話聞くよ、聞く聞く」
 きっと、最初から勝負は着いていたに違いない。
 仕事のプレゼンでもそうだ。企画の内容や書類の完成度や発表のテクニックなどは重要だが、しょせん、決定打にはなり得ない。
 人の心を動かすのは、その人の熱意なのだ。
 揺るぎない意思が、なんとしても通すという覚悟を生み、それが迫力となって全身からみなぎる。
 それを目の当たりにすれば、うなずく以外のことは何も出来なくなってしまう。

「やったあ! あっ、スカートの中、向こうで見る?」
 ツカサはそう言ってリビングにあるソファに向いた。
 制服姿の女子高生をソファに座らせ、モジモジとする両脚をいっぱいに広げさせて、スカートの中をたっぷりと鑑賞する――それはとても魅力的な誘惑だったが、すでに取引の対象からは外れていた。
「バーカ、さっさとパンツ履けよ」
 思わず、助かった、と言わんばかりの顔でツカサははにかんだ。
 堂々としたその態度から、見せるぐらい平気だと思っていたら、やはり、無理をしていたのかもしれない。そんな彼女にセクハラまがいの要求をするとは、あとで寝る前に自己嫌悪に陥りそうな気がした。
 すぐ、その場でパンツを履こうとするツカサ。細い脚を上げたとき、白い太ももが露わになって、お尻の形が半分ほど見えた。
「ややや、頼むから、そっちで履いてくれ」

 カルピスを飲みながら、ツカサの頼み事を聞く。それは女子の大事なところと引き替えにするには、不釣り合いなほど、なんでもない頼み事だった。
「今週の土曜日に花火大会あるじゃん、あれ、わたしと一緒に行って欲しいんだけど……」
 詳しくは知らないが、毎年、夏に隣の市で開催される花火大会のことに違いない。
 一緒に行って欲しいということは、デートしたいってことなんだろうけど、そこには恋愛の匂いはまったくしなかった。どちらかというと、保護者的な観点からついてきてと言っているみたいだった。

 パソコンでスケジュールを確認する。今週の土曜は特に何の予定も入っていなかった。
「ん、空いてるし、いいけど……でも、そもそも、なんで?」
 当然、僕には聞く権利はあるはずだった。

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(2008/07/24(木) 05:24)

 

2008.07.23 Wed
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
青春野球拳
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 まさか、本当に下着を脱ぐとは思わなかった。
 ツカサの目を見るまでもなく、本気なのが伝わってくる。短い制服のスカートをめくれば、うら若き女子高生の陰部を目の当たりにすることになるのだろう。

 時々、女の子は思いも寄らない大胆なことをする。
 そう強く僕の心に印象づけたのは、中学二年の林間学校での出来事だった。
 その日、僕は悪友たちと隣のクラスの女子のテントに忍び込んでいた。食事を終えてから消灯までの自由時間、男子三人と女子三人の六人で、テントの中でゲームをすることになった。
 調子に乗っていた僕たちは、彼女たちに野球拳をやろうと提案した。

 予想に反して、彼女たちは、えー、とも言わずに、
「いいよ、面白そうじゃん、やろうよ」
 と言い出したのだ。
 そこで驚いたのが僕を含む男子三人だった。こそこそ顔を合わせて三人で相談する。その結果、やっぱりやめる、と決めた。
 早い話、ビビッたのである。

 思い出すと、今でも横隔膜が熱く上がってくる感覚が蘇ってくる。本当に緊張すると、おちんちんはピクリとも反応しなくなることも。

 なんで、やろうよー、と本気か冗談か、彼女たちは続けた。
 実際はビビリまくっていた僕も、虚勢を張って、こんなことを彼女らに言った。
「って、おめーら、本当は脱ぐ気ないんだろ」
 すると、一人の女子が「あるよ、ねえ」と言い出して、三人で何やら相談したあと、いきなりジャンケンを始めて、勝った二人が負けた一人に毛布を被せて、ジャージの下を脱がせて、下着を剥ぎ取り、それを男子の前に放ったのだった。
 脱ぎたてほやほやの生ブラとパンティを目の前にして、それに触れることもできない男子に、脱がした女子も脱がされた女子もケラケラと屈託もなく笑っていた。

 今でも、当時の悪友と飲んだりすると、その話が出ることがある。
 話の終わりには、どうして、あの時、やるって言わなかったんだろう、と三人とも口を揃えていってしまう。
 しょせん、子どもだったのは間違いない。
 もう、人生であんなことは起きないだろう――そう思っていた。

 が、約二十年後、なぜだか、同じようなシチュエーションが、再び展開されている。 もし、人生をやり直せるなら、とは多くのフィクションでネタになる命題だった。さて、僕は二十年前に後悔を、取り戻すことができるのだろうか。

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(2008/07/23(水) 04:05)

 

2008.07.21 Mon
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
お断りの美学
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 頼み事を断ることについて、ツカサちゃんには意地悪なことをしてしまったが、普段の僕はそんなことはしない。
 断るのなら、はっきりと言う人間だ。

 当然、断ることを念頭に置いているわけではなく、意図に納得して、自分でできること、やりたいことであれば、ちゃんとやらせてもらう。
 だが、どうにも賛同できず、自分ではできないこと、やりたくないことは、きっぱりと相手に伝えるようにしている。
 その際、お断りするのだから、最低限、相手のことを考えて、なるべく早めに、意思を明確して、きちんと理由をつけるのが最低のマナーではないだろうか。

 時々、僕も人に頼み事をすることがあるのだが、断るときに、これらのことをしてくれない人がいる。
 突然、返事を返さなくなったり、返事があったとしてもそのことにはまったく触れられなかったりすることがある。

 これは特に女性が多く、きっと、断るのって面倒だし悪く思われそうだから、スルーしてしまうのだと想像するのはたやすい。
 いわゆる、空気というか、行間を読めってことだろう。
 でも、やられた方はイエスもノーもはっきりせず、いつまでも気持ち悪くてしょうがない。
 空気は読んで欲しいくせに、相手が傷付くのをわからないなんて、まったく、ひどい話だ。

 犯罪的な行為をする人間や、一方的に悪口を言ったりする奴については、無視しても構わないだろう。
 しかし、ちゃんと誠意を持ってコミュニケーションを求めた相手に、自分の意思をちゃんと伝えずに、結果的に無視してしまうのは、相手の存在を軽視する以上に、勝手に無き者にしようとする許せない行為ではないだろうか。

 と――まあ、つい最近、イヤなことがあったのでここに書いたのだが、灯台もと暗し、自分もそう言うことをしていないか思い出してみる。

 そう言えば、少し前に、ある男性から、ミクシィでマイミクになりませんか、とのお誘いがあったが、そのまま断ってしまった。
 理由はまったく面識の無かった人だったからだ。
 メールやメッセなどでお互いを知った上でマイミクになるのなら歓迎だけど、本当に何も知らない人をマイミクにしても、交流がなくなった時点でいつかは消去してしまうので、そうなる前にお断りしたのだ。
 確かに、何の言葉も添えなかったので、もし、少しでも嫌な思いをさせたのなら、謝ります。ごめんなさい。

 あとは、ひどい別れ方をした元彼女さんから連絡があった場合だ。
 傷が癒えていれば「懐かしいね」と過去を水に流して受け入れるのだが、どうしても「今さら」と思ってしまうこともあり、無視して返事を出さないこともある。
 これも、無視しない方がいいのかな、と考えてしまった。これは特例として認めて欲しいところなのだが……他の人はどう思ったりするのだろう。

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(2008/07/21(月) 04:01)

 

2008.07.17 Thu
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
不信用取引の行方
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 昔から、僕にとって女性の白いブラウスは憧れやら恐れやら、神秘の対象だったような気がする。特に夏服の女子は、思春期の甘酸っぱい記憶がトラウマのように残っていて、不意に呼吸を苦しくさせる。

 スカートから伸びる脚とハイソックスもいいけど、二つの豊かな膨らみと、白い布に透ける色とレースの模様も充分にそそるよな、とぼんやり思う。
 発想を逆にして、女子は夏服の男子のどこにエロティックを感じるのだろうか。
 男子高出身の僕から言わせれば、やはり、腕のような気がする。出来れば、袖をまくって、若干、汗ばんでいて欲しい。

 それはともかく、いきなりお願いと言われても、軽々しくうなずくわけにはいかなかった。
「ごめん、たぶん、出来ない」
「えー、まだ、何も言ってないじゃん」
 話を聞いてしまえば、半分ぐらい巻き込まれたことになるので、やはり、知らぬ存ぜぬが一番だった。
「よく知らないのに安請け合いしちゃうと、後悔すること多いからね」
 こんなにきっぱりと断ってくると思ってなかったのだろうか、プラスチックのスプーンが止まり、ツカサはじっと黙り込んだ。
 その隙に、さっさとカレーを平らげて、ダイニングテーブルから立ち上がり、シンクに皿を沈める。

 昨日と今日と一緒に食事をして、心が近づいたのに、今またゆっくりと離れていくのを感じる。
 仕方がないのだ、こればかりは。
 僕は少し極端な人間で、もし協力するのならば、トコトンまでやってあげたくなる性格なのだ。だから、そうなるには相手にも覚悟のほどを見せてもらうことが必要だった。
 誰でもいいから相談したかったとか、特に理由もなくお願いしたいなど、相手がその程度の気持ちなのに引き受けたら、あとで絶対に悔やむことになる。
 そして、その人を少なからず憎んでしまうだろう。
 そうはなりたくないので、最初のうちにきちっと線を引くことが、僕にとっての人付き合いのマナーになっていた。

 無言でキッチンを離れて、リビングに行く。
 去年、ノートパソコンを買ってから、こっちをメイン機にして、ほとんどリビングで仕事や執筆をするようになっていた。
「……話ぐらい聞いてくれてもいいじゃん」
 ツカサの呟きが聞こえてくる。頬を膨らませるのが、見なくてもわかる。
「悪いけど、ん、ごめんな」
 一応、謝っておく。
 これで会話は終わり、アイスを食べ終わったら、帰らせるつもりだった。その時、あっ、と思い出す。肉じゃがを入れていたタッパーウェアはシンクに沈めたままだった。

 思い立ったら、すぐに行動に移すに限る。
 サッと立ち上がってキッチンに戻ると、台所に立って洗剤をスポンジに含ませて、タッパーのフタからさっさと洗っていった。
「……怒ってる? 嫌いになった?」
 手を動かしながら、短く答える。
「んー、そういう問題じゃないんだよ」
 タッパーだけ洗って、水でゆすぎ、一旦、食器入れに置く。乾いた清潔な布巾を出して、水滴を拭き取っていく。
「今すぐ洗って返すから、今日はもう帰りなよ」
 すっかりと綺麗になったところで、パチンとフタを締めて、ツカサの目の前に置く。ストロベリーのハーゲンダッツはすっかりと溶けて半分が液体状態になっていた。

「どうしたら、話を聞いてくれる?」
 こんなにも必死に食い下がって、一体、何があったんだろう、と思う。が、しかし、シリアスな顔で言われても、冗談で返すしかなかった。
「そうだな、じゃあ、ここでパンツを脱いで、スカートの中見せてみてよ」
「え……」
「そしたら、話を聞いてあげる」

 本当にふざけていっただけで、そうさせるつもりはまったくなかった。
 それなのに、ツカサは話を聞くと、飛び出すように浴室に向かった。すぐに戻ってくると、僕の前に仁王立ちになった。
 その右手にはピンクの下着が握られていた。

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(2008/07/17(木) 10:18)

 

2008.07.16 Wed
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
青い夏のブラ
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 少し前から、シホミさんとの日々を参考にして、ある小説を書いている。
 公募用ではない完全に自分のための作品。
 現実にあったことをそのまま書くことに興味はないから、ほぼ100パーセントのフィクションで書くつもりだ。
 語り部の主人公も大学在住の学生にして、ヒロインたる女性も人妻に設定してみた。
 現実の欠片を集めて、まったく違う世界の物語を創り上げていくのは、本当に楽しい。

 企画書の仕事をほっぽり出して、その作品を書いていると、ピンポーン、とドアのチャイムが鳴った。
 夕方の七時過ぎ、この時間に来るのは、新聞の勧誘だろうな、と思って玄関先に出る。
「どなたですか?」
「デリバリーキッチンです」
 どこかで聞いたことのあるような若い女性の声。
「はあ!?」
 ドアスコープを覗くが、なぜか真っ暗だった。鉄のドア越しの会話はもどかしく、鍵を回してドアを開けた。
「すみません、何も頼んでないんですが」
 そこには制服姿のツカサが、いたずらっ子の目つきで笑いをこらえるようにはにかんでいた。まさかのツカサちゃん再登場だ。

 彼女が手に持っていたのはタッパーウェアの容器だった。
「なにそれ?」
「カレーのお礼だよ」
 お礼と言われても、昨日作ったカレーはまだ山盛り残っている。フタを開けてみると、そこには、ジャガイモとニンジン、タマネギに糸コンニャクで構成された料理が入っていた。
「肉じゃが、か」
「うん」
 嬉しそうにアクセントをつける。
「入っていい?」
 あ、ちょっと待て、と言う前にぺったんこのローファーを脱ぎ捨てて、またもや図々しくも部屋に入ってきた。
「カレーのお礼に肉じゃがなんて、ほとんど材料同じじゃん」
「うん、好みに合わせてみた」
「誰の?」
「あなたの。あっ、そう言えば、なんて呼べばいい?」
「ん、又さんでいいよ」
「へー、ヘンな名前。ほら、具が大きいでしょ」
 優しいというか律儀というか、それとも単純にヒマなのか、でも、また会えたことは不思議と嬉しく思えた。
 ちょうど、良い時間だし食事を取ることにした。一緒にカレーを食べるか、と聞いたが、肉じゃがを食べてきたのか、ううん、と首を振った。
 しかし、一人で食べる姿をジロジロ見られるのもイヤだと思って、強制的に何か食べろ、というと、冷蔵庫を漁りだして、冷凍庫の中からずっと前に買って忘れていたハーゲンダッツのミニカップを探し当てた。
「やった、ストロベリー」
「良かったね」
 肉じゃがをおかずにして、カレーライスを食べるのは少しだけ複雑な気分だった。
 食事の間、お互いに共通の話題もなく、沈黙の空気が流れている。あと一口、ほとんどカレーを食べ終えたところで、
「あのさ」
 とツカサが声を出した。
 冷凍庫の奥に入れたあったからか、ハーゲンダッツはカチコチに凍っていて、プラスチックのスプーンでは苦戦したのか、まだ半分も食べていなかった。

「えっと……又さんに、一つお願いがあるんだけど」
 んだよ、またかよ、と思ってツカサを見ると、言い出しにくそうにはにかんで笑った。

 ふと、真正面からツカサを見るのは、これが初めてなんじゃないかと思った。
 えんじ色のリボンに白のブラウス、二つの柔らかい膨らみには、青色とレースの模様がうっすらと透けて見えた。
 それは手を伸ばせば届く位置にあった。

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(2008/07/16(水) 04:04)

 

2008.07.13 Sun
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
目には見えない魔法
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 本にも大きな変化が訪れている、の話の続き。

 まずは、ブックオフなどの大型古書販売の台頭が挙げられるだろう。
 それは今までに再販制度で守られていたはずの本の価格という共通認識を根底から破壊してしまったように思える。
 そう、出版界にとって、一番のダメージは文庫が売れないとか万引きが増えたことよりも、読者側の常識の変化ではないだろうか。

 1500円ぐらいで買って、自分が大切に持っていた本が、そんなに古びてもない状態でたった100円で叩き売られているのを目の当たりにする衝撃。
 今までは、本は所有して何度も読むものだったものが、日本の狭い住宅事情もあって、もはや本はストックではなくフロー、つまり流通するものになってしまったのだ。
 古本を買って読んで、また売り払ってしまえばいい。
 新刊でも、一年ぐらい待てば、文庫に出るよりも早くブックオフの100円コーナーに並べられる時代、多くの人が普通の書店で単行本を買うのを躊躇うようになったのではないだろうか。

 その他にも、週刊誌や情報誌など、雑誌も相当ヤバイのではないだろうか。
 雑誌の特徴は速報性にあるが、その点ではどう逆立ちしてもネットには勝てない。
 ネットでは小説のように長文を読む必要もないし、いち早く豊富な情報にたどり着けることから、この先、どうやって雑誌が生き抜いていくのか、興味深く見守ることになるだろう。
 唯一、ネットに勝っているのは、取材や記事を書く能力だから、きっと、そこがキーポイントになるに違いない。

 行き着くところ、最後は苦しい業界だよなあ、と思わざるを得ない。
 それでもきちんと生き抜いている作家がいる。そこで何よりも僕が評価の基準としているのは、ブックオフの100円陳列棚だ。
 ちゃんと棚に作家名があるけれど、そこに並ぶ本が少ないほど、本当の意味で読者に支持されていることになる。
 棚に溢れやすいものは流行りを追ったり時事ネタを扱ったもので、逆に、棚に並ばないものは、きっと、行間に目には見えない魔法が綴られているのだろう。

 こういうことを考えると、いつも、ある彼女のことを思い出す。

 シホミさんはものすごい才能の持ち主だった。
 彼女の小説を読んだだけで、ああ、この人はプロになるんだ、いや、プロになって欲しい、と羨望や嫉妬を越えて応援したくなるほど、僕は彼女のすべてが好きだった。

 しかし、彼女はある日、突然、筆を止めた。
 書けなくなったのか、書かなくなったのかはわからない。
 
 そして、その夜、初めてシホミさんは僕に身体を許した。
 そこには何の意味も無いはずなのに、僕は今でも特別な感情を抱えたまま、生きている。

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(2008/07/13(日) 23:54)

 

2008.07.11 Fri
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
グーテンベルグの優位性
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 編集者の電話を切った後、ふと、小説の今後について考えてしまった。

 以前、出版系の会社から小説執筆のオファーを頂いたことがあった。話を聞いてみると、基本、携帯や電子ブックの掲載という話で、執筆料も印税もちゃんと出しますとのことだったが、断ってしまった。
 世の中に早く出たいものの、やはり、本にこだわりたかったのだ。
 いまだにその気持ちは変わらないが、世の中は常に変わっている。

 過去に広告代理店の企画屋で働いている時、ちょうど、音楽業界で異変が起こっていた。MP3など新しい音楽フォーマットの開発と、iPodなどの機器の発売によって、CDやレコードが要らない世の中が訪れてしまったのだ。

 その時、一緒に仕事をしていた音楽のプロデューサーに、これからはCDは無くなりますね、と言ったら、
「いや、それはない。人間に所有欲がある以上、パッケージを手元に持っていたいに違いない」
 と、その人は真顔で答えていた。
 その予想は外れるな、と思ったけれど言わないでおいた。彼と僕はちょうど十歳ぐらいの年齢差だった。

 彼の世代はそうだろう、しかし、僕から下の世代は、確実に物に対する所有欲が無くなっている。逆に大半の大人たちが無価値だと思っているデータに対する所有欲が出て来たように思う。
 昔、テレビゲームでアイテムをゲットして喜んだように、実際には触れることは出来ないデータなどが実際の価値を得るようになっている。
 ちょうど、それは現金と電子マネーの関係に似ている。
 数年前は誰も電子マネーを使おうなんて思ってもみなかったはずだ。それが、今はSuicaのように自然に使いこなして、そのうち現金の流通量を超えてしまうだろう。
 株券だって、もはや、紙で持つことは不可能な時代だ。

 そこで、小説の話に戻る。
 音楽と同じように、小説にもデジタルの波がやってきていて、数年前から、小説などが読める小型の電子ブックが発売されたことがあった。
 しかし、ミュージックプレイヤーに較べてあまり普及しなかった。今でも、ニンテンドーDSで発売されているが、たぶん、大して売れないだろう。
 そう、グーテンベルグが発明した活版印刷の技術は、デジタルに較べてもまだその優位性を保っているのだ。

 本の優位性をいくつか上げてみる。
1)電源が要らず、すぐ読める。
2)再生用の機器が不必要。
3)比較的安価で、手軽に携帯が可能。

 当たり前のようで他のメディアと較べると、その自由度がわかるだろう。
 CDやDVDのように再生機が要らないし、電気も必要としない、手軽に持ち運びができる。 
 ケータイもパソコンも電源がいるし、ケータイは長文を読むのに向いてないし、パソコンは寝転がって読めない。やはり、本が一番優れている媒体なのだ。
 これから出てくる電子ブックは、この本のアドバンテージを覆せない限り、普及することはないだろう。

 しかし、そんな本でも変化は訪れている。
 と、長くなってきたので、続きは明日にしよう。

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(2008/07/11(金) 04:55)

 

2008.07.09 Wed
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
次は傑作をお願いします
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 その編集者はこちらから電話やメールをしても、なかなか連絡が付かず、いつも忘れた頃に電話をくれる人だった。
 忙しいんだなあ、と思うけど、もうちょっと何とかならないのかな、とも思う。
 まあ、でも、僕はカネを産みだしている存在じゃないし、忙しい時間を割いて相手にしてもらっているだけでも、感謝をしなければならない。
 すぐに返事をもらいたければ、やはり、売れっ子になるしかないのだ。そのためには……ハイハイ、やることをやりましょう。

 電話を終えてリビングに戻ると、ツカサはまだいた。僕の顔を見るなり、
「すごいね」
 と言った。
「何が?」
「へええー、小説を書いてる人だったんだ」
 はっはっは、小説を書くぐらい、偉くも何ともないだろう。本当にすごいのは、ちゃんと商品として売れる、もしくは作品として認められる小説を書いている人たちだ。
「忘れろ、そのことは」
「へっ、なんで?」
「本、出てるの? とか、どんなの書いてるの? とかいろいろ説明するの疲れるから。しかも、説明した後に、現状の自分が情けなくて落ち込むから」
「そっか、わかった。で、読ませてくれる?」
 くかー、何を聞いているのかな。あまりにも率直なやり取りに、怒る気にもならなくて、黙って首を振って、テレビを観る。
 しばらくして、パッとツカサは立ち上がって、
「帰るね」
 と言った。招かざる客と言っても客は客。玄関まで見送る。
「もう、真夜中にあんなところで電話なんかするなよ」
「あは、うん、あ、カレーごちそうさま」
 お互いにバイバイと手を降って別れる。
 意味ありげに書いたけど、ツカサちゃんのエピソードはこれでお終い。恋愛に発展すると思ってた人、残念でした。

 部屋に戻って、編集者と話したことのメモを読み返す。
 結構、シビアなことを言われているのを、今さら気付く。
 でも、この人の感性は間違ってはいない。上手く言葉に出来ないところがもどかしいけれど、何か通じ合う部分がある。
 だから、僕に声を掛けてくれたんだろうけど。
 今のところ、○なのが2作、×なのが2作。
 五割の確率じゃ、ダメだよな。

「次は傑作をお願いします」
 
 彼の締めの言葉を、自分の口でいってみる。

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(2008/07/09(水) 03:13)

 

2008.07.08 Tue
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
世界の標準、わたしの基準
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 まずは訂正と言うか、また別の考え方があると指摘があった。
 カルピスの濃度について、ここでは単純に濃いめだと幼く、薄めだと大人だと書いたが、ある人の考えでは、薄いと幼く、濃いと大人ではないか、と。
 その根拠は、子どもの頃、普通の家庭ではカルピスは貴重で、少ない原液でなるべく多くの量を飲むために水を多めに入れていた、と言うのだ。
 なるほど、確かに、うちの弟もいつも溢れるぐらいの水を注いでいたような気がする。

 本当の意味でカルピスの標準的な味が確立されたのは、きっと、カルピスウォーターが発売されたからに違いない。
 最初、飲んだ時、どこか薄いなあ、と僕は思った。
 そして、僕のカルピスを彼女に飲ませたりすると、9割の確率で濃いと言われたりする。昔から、なぜか、濃い味が好みだった。

 そういうわけで、
「ちょっとこれ濃くない?」
 とツカサは白くなった舌を出した。
 カルピスの味はさておいて、肝心のカレーの味はいまいちだった。スパイスの加減が曖昧で、もう少しわかるように入れた方がいいと思った。
 対する、ツカサは一口食べた途端に、微妙とわかる表情を見せた。きっと、彼女にとっても通常のカレーの方が美味しかったに違いない。
 でも、二人ともカレーの味には文句を言わなかった。
「すごく美味しいね」
 そう言われてもしまうと、共感せざるを得なくなる。
「そうだね」

 ご飯を食べたあと、ツカサに自宅に戻るように言う。
 同じマンションでも未成年の少女が男の部屋にいること自体、おかしいのだ。
 もう何年も同じ屋根の下に住みながら、ツカサがいることさえ知らなかった。ほんの二十四時間前までは、まったく見知らぬ赤の他人だったはず、それが、一緒のご飯を食べるまでの仲になっている。
 他人と親しい人を区切る壁って何なんだろうか、と考える。
 別の場所で、違うシチュエーションで出逢ったら、僕とツカサはこんな風に話すことはなかったはずだ。

 その時、携帯が鳴った。
 知り合いの編集者からの久しぶりの電話だった。
 会話を聞かれたくなくて、もうすぐ九時だ、と壁の時計を指して、ツカサに帰るように伝える。

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(2008/07/08(火) 02:37)

 

2008.07.04 Fri
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
キャンプじゃないんだから
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 結局、ツカサに押し切られる形で一緒にカレーを作ることになる。
「カレー大好き!」でこっちの反応を伺って、「作ってあげよっか?」で一度、僕に断らせて、「じゃあ、一緒に作ろっ」と妥協点を見出していく。
 上手いやり方だった。
 彼女がいてもいなくても、これから作って食べる手間は同じなので、積極的にイエスではないけど、ノーとも言えなかった。

 基本、市販のルーを使うのに、各家庭で少しずつ作り方が違うみたいで、それが結構、面白かったりする。
「でかっ」
 ツカサが声を出したのは、ジャガイモ班の僕が包丁を握っている時だった。
「そうか?」
「大きいよ、一口で食べられないじゃん」
 そう、僕のカレーはやたらと具がでかい。お店で食べるようなカレーやレトルトのようなドロドロなのは好きじゃない。家で食べるカレーはやっぱり具がゴロゴロしてないと、食べたあとの満足感が違うのだ。

「キャンプじゃないんだから」
 そう突っ込んで、ツカサは笑った。このフレーズが気に入ったらしく、料理している間、2回ほど繰り返した。
 ツカサんちのカレーは具が小さく、やたらと玉ねぎを細かく刻んで入れていた。高校生にしては調理の手際もよく、僕がしたことはジャガイモの皮を剥いて切るぐらいのことだけだった。
 それでも、ツカサは嬉しそうにはしゃいでいた。
「一緒にご飯作るのって楽しいね」
「カレーは簡単だから」
「わたし、男子と一緒にご飯作ったの、初めてかも」
 ダンシ――という発音に思わず笑ってしまいそうになる。三十過ぎの男でもダンシはダンシだよな。

 カレー作りは最後の段階を迎えていた。鍋の火を止めて、カレーのルーを溶かしていく。
「じゃ、秘伝のスパイスを使う?」
「えっ、ひでんって?」
 冷蔵庫を開けて、扉の内側を見せた。
 ガラムマサラ、ターメリック、ナツメグ、クミン、コリアンダーなどと、色とりどりのビンで調味料が並んでいる。自分で買い揃えたものもあるけれど、その多くがかつての恋人の置き土産だった。
 その人のことを書いてもいいけど、複雑になりそうだから、ここでは割愛しておく。

「って、全部、市販のものだけどさ」
 おもしろそー、と言いながら、ビンを取って、キャップを開け、鼻を近づけるツカサ。
「入れると、一味、違ってくるよ」
「まぢですか」
「うん、プロっぽくなる。まあ、バランスが難しいけどね」
 ビンを鷲づかみにして、ずらりとキッチンに並べる。
「味見しながら、入れてみなよ」

 炊飯器のアラームが鳴って、ご飯が炊ける。
 一度かき混ぜて、五分ほど蒸らしてから、シチュー皿に盛って、その上にとろけるチーズを載せて、彼女に渡す。具だくさんのカレーをたっぷりとかけて、ようやく完成。
 飲み物は二人ともカルピスで、さっそく、スプーンを手に取った。


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(2008/07/04(金) 13:45)

 

2008.07.02 Wed
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
悪い奴らとサスペンス
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 僕が来たことに気づいて、慌てて立ち上がりこっちを向く。
 彼女がチカじゃないことに、落胆するような安心するような複雑な気分でいると、そんな胸の内を吹き飛ばすかのように急展開が訪れた。
「ね、お願い、かくまって欲しいの」
 携帯電話を片手に持ち、白い半袖のシャツにだらしなく緩められたリボン、彼女は昨晩と今朝出くわせた、例の女子高生だった。

「な、なんだ、悪いヤツらから追われているのか?」
 目の前の唐突なシチュエーションが面白くて、ついつい、そんな言葉が口から出てしまう。
「ぁ、うぅ〜ん、悪い子じゃないんだけど……」
 真面目に考えている素振りに、からかっているようには思えなかった。
「ねねね、五分でいいから、ダメ?」
 そうは言っても、いきなり見ず知らずの未成年の女子を家に入れるのはなあ、と思ってると、彼女は僕の右手に握られていたキーホルダーを奪い取って、
「開けてあげる」
 といって、鍵穴にさして素早く右に回した。

「カルピス飲んでいい?」
 コーヒーを勧めたが、カフェインは苦手だということで、棚からあざとくカルピスの紙パックを見つける。
「自分で作りな、お好みの濃さで」
「あ、うん」
 彼女の好みは薄めらしい。五分の一には少し足りないぐらいに白い原液をトポトポと注いで、蛇口をひねって水を入れる。そんなに入れたら氷が入らなくなるのに、と思うのだが、もちろん人の好みには口を挟まない。
 ずっと前に、誰かからカルピスの濃度はその人の幼児性を計るリトマス試験紙だと聞いたことがあった。単純に濃いめだと幼く、薄めだと大人だと言っていた。
 余談だが、僕は昔から濃いめが好きだった。
 勝手知ったる他人の家、じゃないけど、間取りがほぼ同じのマンション。慣れた手つきで蛇口を閉める仕草に、ずっと前から彼女と知り合いのような錯覚に陥った。

 彼女の名前はツカサだった。
 同じマンションの三○二号室に母親と住んでいるとのこと。
 話しながら、じっと彼女の顔を観察する。当たり前のことだが、よく見ればチカとは似ても似付かない顔で、身長もそんなに低くなかった。
 かくまって欲しい理由については、友達の紹介で知り合った男子に告白されて、家の前で待ち伏せされてたらしい。今までに何度か同じようなことがあって、昨日の夜も、そのことで友達と話していたということだった。
「さっさと断っちゃえばいいのに」
 誰もがそう思うことだろう、しかし、思春期の少女の世界には友達付き合いとかいろいろあるらしく――きっぱりとは断れないということだった。

 ツカサの話を聞きながら、買ってきた食材を冷蔵庫に収めていく。
 ニンジン、豚バラ肉、タマネギと入れたところで、ツカサが自分の話をやめて、
「今日はカレー?」
 と聞いてきた。
「――あー、うん、そうだけど」
 二つの瞳がキラーンと輝く。
「カレー大好き!」
 そんなの日本国民の大多数がカレー好きだって、と言おうとしたが、彼女が言いたいこととはズレてるよなと思って押し黙る。

 さて、どうしたものか、と丸々と太ったタマネギを見ながら考える。


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(2008/07/02(水) 15:11)

 

2008.07.01 Tue
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』
頬と、あごと、唇にキス
text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良
 チカの存在感は、別れて数年経った後も、まだこの胸に残っている。
 かと言っても、外見的には目立った特徴もなく、背も低く、小柄でショートカットの似合う女の子だった。しかし、その小さな身体に秘められた性格は、今まで付き合ってきた女性の中で、最も熱く、激しく、強か(したたか)だった。

 そもそもの出逢いが衝撃的で、当時、彼女は高校三年生だった。
 第一志望の大学に合格したら、私と付き合ってください、と一方的に言ってきて、四ヶ月後、見事、そこその名のある大学に受かってしまったのだ。
 約束通り、僕とチカは付き合うことになった。

 初めてエッチをした日のことは忘れられない。
 こぢんまりとした洋食屋で夕食を取った後、彼女は何気に僕の左手を強く握り締めて、ずんずんと先を急ぐように歩いていった。
 どこに行くんだよ、とふざけて言ってると、そこはもうピンク色のネオンが輝いているラブホテル街だった。

 恋人同士なんだから、そうなっても別に不自然でも何でもなかった。
 ただ、彼女から積極的に引っ張られたことで、どこか、自分のペースじゃないような居心地の悪さを感じていた。
 お互いにシャワーを浴びて、ベッドに横たわる。
 髪を撫でながら、頬と、あごと、唇にキスしていく。

 異変に気付いたのは、その時だった。
 チカは両手を胸の前で重ねていたのだ。ブルブルと震えるように力いっぱい握り締めている。
 ちゃんとは聞いてなかったものの、何となくその態度からチカは経験済みだと思っていた。顔だって少し吊り目だけど、可愛い方の部類に入ってると思うし、高校時代もちゃんと彼氏がいたと言っていた。
 だから、初めてだとは思ってもみなかった。

 ふと、笑いそうになるが、奥歯に力を込めてこらえる。
 相手が緊張してたり、いっぱいいっぱいになっていると、リラックスさせようと微笑みかけても、笑われてると思わせてしまい、逆に萎縮させてしまうからだ。
 じっと、見つめて、大丈夫、大丈夫、と呟いて、髪の毛を撫でる。
 別にセックスだけじゃなくても、誰だって最初にすることは怖いもの。時間はたっぷりとあるし焦ることはなかった。

 しかし、チカが震えていた理由は、そうではなかった。
 おまけにチカはすでに初体験を済ませていた――彼女が望まない形で、望まない相手と。

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(2008/07/01(火) 11:52)

 

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