|
|
|
僕と君と明日のつづき
[online workshop blog]
当ブログは基本的にフィクションです。実在の人物、団体、事件など一切関係ありません。掲載された文章には校正が入っておりません。誤字脱字などのご指摘、その他、ご感想やリクエストなどありましたら、メールにてお送り下さい。
|
|
 |
|
| 2008.06.30 Mon |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| つまり、具体的な仕事の話にならなかったってこと |
 |
| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
打合せは用意していた資料が要らないほどに、プリミティブな段階で終わってしまった。 プリミティブ? 原始的って意味、つまり、具体的な仕事の話にならなかったってこと。
初めて名刺交換した代理店の営業さんは、そんな感じの人だった。 ユーザーベネフィット、アジェンダ、プロフィットなど英語やら、マーケティング用語やネット用語も駆使して、オリエンテーションしてくれるのだが、いまいち焦点がボケて何をしたいのかさせたいのはハッキリわからなかった。 オリエンは、そそ、説明のことね。
まあ、文脈の流れからニュアンスはわかるものの、やっぱり気持ち悪い。 こういう時、黙って聞くのが、大人ってものだけど、あまりに酷い場合はバカになった気分で、いちいち問い質すことをする。 「すみません、勉強不足で申し訳ないのですが……」 と前置きして、意味不明な言葉を聞くことにする。
この行為の効果はいくつかあって、まずは、言葉の意味や定義をハッキリさせることが出来ること。同じ言葉でも捉え方の違いで議論になったりするからね。 次に、その人が優秀な人か見極められる。もし、その用語を使わずに説明できなければ、本当に理解しているのか怪しいものだ。 そして、こんな質問ばかりしてこいつはアホだ、と思われるかもしれないが、次第に無視できない存在になって、顔と名前を覚えさせることが出来る。
大体、広告代理店なんて、自分たちではモノを創らずに、コミュニケーションがメシの種なんだから、スタッフ相手の打合せの場所でも、常に伝わる言葉を意識しなければならないと思うんだけどなあ。 相手が理解しているかどうか、顔を見ればわかりそうなものなのに――。
打合せが終わった後、書店に立ち寄っただけで、さっさと家に帰ることにする。 どこかで食事を済ませようとも思ったけど、どこも混んでいて、慌ただしくご飯をかき込むよりも、家でゆっくりカレーでも作って食べようと、最寄り駅にあるスーパーに立ち寄る。
いっぱいに膨らんだレジ袋を提げながら、ふんふんと鼻歌を奏でながら家路を急ぐ。 マンションに着いて通路を歩いていると、ドアの前に何かがうずくまっているのが見えた。 な、なんだ? と思って、後ろからそっと近づくと、それが女性のスカートの一部分なのがわかった。
瞬間的に、チカかもしれない、と思った。 ここに来ることはあり得ないとわかりきっているはずなのに――そうだ、今朝、マンションのロビーで郵便物を手に持ちながら、駆けていく女子高生の背中をじっと見続けた理由が、今、はっきりとわかった。 それは彼女の振るまいがどこかチカに似ていたからだ。
|
 |
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 | 固定リンク |
トラックバック(-)
|
レス:0
(2008/06/30(月) 09:38)
|
| 2008.06.28 Sat |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| なーんて、一人、モノローグ風に呟いてみる。 |
 |
| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
ひょんな再会は、ただの偶然をまるでずっと前から決まっていたかのような錯覚に陥りさせ、運命という根拠がありそうで無いものを信じさせる――。
サッカーの試合を観ていたのがいつの間にか眠ってしまい、ハッと目が覚めてベッドから跳ね上がる。 時間を見ると、午前八時ジャスト。 はう、ヤバイ、でも、ギリギリセーフだ。 すぐに飛び起きて、部屋を横切りながらジャージとシャツとパンツを脱ぎ捨てていって、浴室に入ってシャワーを浴びる。
ぬるめに設定したお湯を浴びて、今日の打合せに持っていくものを整理する。 忘れ物が多いとは、小学生の低学年の頃から言われ続けてきたことだった。成長するにつれて少なくはなったものの、今でも時々、致命的な忘れ物をしてしまう。 ガシガシと頭を洗いながら、アレとコレとソレの資料は持っていかないとな、と頭の中で指折り数えながらインプットする。
バッグを脇に抱えて玄関を出る。 マンションのロビーを通り過ぎるついでに、郵便受けも見ておく。 先週、アマゾンで注文していた本が入っていれば、行きの道中も楽しいものになるのにな、と思ったのだが、世の中はそんなに上手くは行かないもので、箱の中は請求書とダイレクトメールばかりだった。 その時、背後にダダダッと階段を駆け下りる音が聞こえた。 何事かと振り返ると、夏服を着た女子高生が一階に飛び降りて、勢い余って大きく回りながらロビーに出て来た。 ふと目が合う――昨日のもっさいスウェット姿とのギャップで人違いだと思ったが、目を見ればわかる。その女子高生は間違いなく真夜中の彼女だった。
「あっ!!!」 先に声を出したのは彼女だった。表情がどこか固まっている。 無言でうなずく僕。すると彼女はぺこりと頭を下げて、 「えっと、おはようございます」 と言って、歩幅を狭めてそそくさと僕の隣を通り抜けていった。
僕は届いた郵便物を手に持ちながら、なぜなのか、彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。 人間の視線には、目には見えないビームのようなものが出ているのだろうか、突然、彼女は足を止めて、くるっと後ろを振り返った。 再び目が合うと、彼女は急いで前を向き、文字通り脱兎のごとく駆け出した。 その挙動不審な動きは、野良ネコのそれにとてもよく似ていた。
「そう、まさか、それがきっかけとなって恋が始まろうとは、この時の僕には思いも寄らないことだった」
なーんて、一人、モノローグ風に呟いてみる。 そんなことあるわけないよな、と笑うが、しかし、僕と彼女は数時間後、意外な形で再会を果たすことになるのだった。
|
 |
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 | 固定リンク |
トラックバック(-)
|
レス(-)
(2008/06/28(土) 17:40)
|
| 2008.06.27 Fri |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| ニャガガーと叫んでネコが逃げていくシーン |
 |
| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
深夜、生中継で放送されている海外サッカーでのハーフタイム。 明日は燃えるゴミの日なのに気が付いて、部屋中のゴミを掻き集め、ちょっとフライングだけど、マンションのロビーの隣にあるゴミの集積所に持っていく。 パンパンに膨らんだゴミ袋を両手に四つ抱えて廊下を歩いていくと、どこかから、怪しげな話し声が聞こえてきた。
囁くような声だが、時々、苦しそうに息を詰まらせている。 盛りの付いたネコ? と思ったが、それにしては、ニャアーと伸び上がるような声を最近、まったく聞いていなかった。 一体、何の音なんだろう、と不思議に思いながらも、網で囲まれた集積所にゴミを置いて、レバーを回して戸締まりする。
後半が始まる前にさっさと戻ろうとすると、その声はマンションのロビーの裏側から聞こえてくるのがわかった。 そこには倉庫があって、配電盤が設置されて管理会社の掃除道具も置いてあった。少し前に、近くのマンションでぼや騒ぎがあったこともあって、もしや……と考えが頭を過ぎる。
いきなりヌッと顔を出したら、一撃でやられるかもしれないと、静かに近づいて、 「誰だっ、そこにいるのは!」 と声を出した。 僕の希望としては、ニャガガーと叫んでネコが逃げていくシーンを想像していたが、そいつは、スッと壁から姿を現した。
赤いだぶだぶのスウェット上下に、肩まで伸びた栗色の髪、手には携帯を持っていて、こっちをじろりと睨み付けていた。 「……ちょっと待って、いきなり変な人が来て……あ、なんすか?」 その声を聞いて、そいつが女だと言うことがわかった。声の高さやしゃべり方で十代の若い女の子だということも。 変な人と言われてムッとしたが、怒るわけにはいかず、 「いや、物音がしたから、何かいるのかなって思って」 冷静な口調でわけを話した。 「わたし、このマンションの住人なんですけど」 彼女は憤まんやるかたないといった調子で早口で言うと、僕に背を向けて、また携帯電話で話し続けた。 「そっか、いや、ごめんね」 そう独り言のように呟いて、そそくさとロビーを通って部屋に戻った。
その時、彼女の小さな顔が涙で濡れていることに、僕は気付かない振りをしていた。
|
 |
FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 | 固定リンク |
トラックバック(-)
|
レス(-)
(2008/06/27(金) 17:37)
|
|
|
|