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FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』(6)
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僕と君と明日のつづき
[online workshop blog]
当ブログは基本的にフィクションです。実在の人物、団体、事件など一切関係ありません。掲載された文章には校正が入っておりません。誤字脱字などのご指摘、その他、ご感想やリクエストなどありましたら、メールにてお送り下さい。
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| 2008.07.04 Fri |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| 食べたあとの満足感が違うのだ。 |
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| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
結局、ツカサに押し切られる形で一緒にカレーを作ることになる。 「カレー大好き!」でこっちの反応を伺って、「作ってあげよっか?」で一度、僕に断らせて、「じゃあ、一緒に作ろっ」と妥協点を見出していく。 上手いやり方だった。 彼女がいてもいなくても、これから作って食べる手間は同じなので、積極的にイエスではないけど、ノーとも言えなかった。
基本、市販のルーを使うのに、各家庭で少しずつ作り方が違うみたいで、それが結構、面白かったりする。 「でかっ」 ツカサが声を出したのは、ジャガイモ班の僕が包丁を握っている時だった。 「そうか?」 「大きいよ、一口で食べられないじゃん」 そう、僕のカレーはやたらと具がでかい。お店で食べるようなカレーやレトルトのようなドロドロなのは好きじゃない。家で食べるカレーはやっぱり具がゴロゴロしてないと、食べたあとの満足感が違うのだ。
「キャンプじゃないんだから」 そう突っ込んで、ツカサは笑った。このフレーズが気に入ったらしく、料理している間、2回ほど繰り返した。 ツカサんちのカレーは具が小さく、やたらと玉ねぎを細かく刻んで入れていた。高校生にしては調理の手際もよく、僕がしたことはジャガイモの皮を剥いて切るぐらいのことだけだった。 それでも、ツカサは嬉しそうにはしゃいでいた。 「一緒にご飯作るのって楽しいね」 「カレーは簡単だから」 「わたし、男子と一緒にご飯作ったの、初めてかも」 ダンシ――という発音に思わず笑ってしまいそうになる。三十過ぎの男でもダンシはダンシだよな。
カレー作りは最後の段階を迎えていた。鍋の火を止めて、カレーのルーを溶かしていく。 「じゃ、秘伝のスパイスを使う?」 「えっ、ひでんって?」 冷蔵庫を開けて、扉の内側を見せた。 ガラムマサラ、ターメリック、ナツメグ、クミン、コリアンダーなどと、色とりどりのビンで調味料が並んでいる。自分で買い揃えたものもあるけれど、その多くがかつての恋人の置き土産だった。 その人のことを書いてもいいけど、複雑になりそうだから、ここでは割愛しておく。
「って、全部、市販のものだけどさ」 おもしろそー、と言いながら、ビンを取って、キャップを開け、鼻を近づけるツカサ。 「入れると、一味、違ってくるよ」 「まぢですか」 「うん、プロっぽくなる。まあ、バランスが難しいけどね」 ビンを鷲づかみにして、ずらりとキッチンに並べる。 「味見しながら、入れてみなよ」
炊飯器のアラームが鳴って、ご飯が炊ける。 一度かき混ぜて、五分ほど蒸らしてから、シチュー皿に盛って、その上にとろけるチーズを載せて、彼女に渡す。具だくさんのカレーをたっぷりとかけて、ようやく完成。 飲み物は二人ともカルピスで、さっそく、スプーンを手に取った。
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(2008/07/04(金) 13:45)
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| 2008.07.02 Wed |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| 余談だが、僕は昔から濃いめが好きだった。 |
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| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
僕が来たことに気づいて、慌てて立ち上がりこっちを向く。 彼女がチカじゃないことに、落胆するような安心するような複雑な気分でいると、そんな胸の内を吹き飛ばすかのように急展開が訪れた。 「ね、お願い、かくまって欲しいの」 携帯電話を片手に持ち、白い半袖のシャツにだらしなく緩められたリボン、彼女は昨晩と今朝出くわせた、例の女子高生だった。
「な、なんだ、悪いヤツらから追われているのか?」 目の前の唐突なシチュエーションが面白くて、ついつい、そんな言葉が口から出てしまう。 「ぁ、うぅ〜ん、悪い子じゃないんだけど……」 真面目に考えている素振りに、からかっているようには思えなかった。 「ねねね、五分でいいから、ダメ?」 そうは言っても、いきなり見ず知らずの未成年の女子を家に入れるのはなあ、と思ってると、彼女は僕の右手に握られていたキーホルダーを奪い取って、 「開けてあげる」 といって、鍵穴にさして素早く右に回した。
「カルピス飲んでいい?」 コーヒーを勧めたが、カフェインは苦手だということで、棚からあざとくカルピスの紙パックを見つける。 「自分で作りな、お好みの濃さで」 「あ、うん」 彼女の好みは薄めらしい。五分の一には少し足りないぐらいに白い原液をトポトポと注いで、蛇口をひねって水を入れる。そんなに入れたら氷が入らなくなるのに、と思うのだが、もちろん人の好みには口を挟まない。 ずっと前に、誰かからカルピスの濃度はその人の幼児性を計るリトマス試験紙だと聞いたことがあった。単純に濃いめだと幼く、薄めだと大人だと言っていた。 余談だが、僕は昔から濃いめが好きだった。 勝手知ったる他人の家、じゃないけど、間取りがほぼ同じのマンション。慣れた手つきで蛇口を閉める仕草に、ずっと前から彼女と知り合いのような錯覚に陥った。
彼女の名前はツカサだった。 同じマンションの三○二号室に母親と住んでいるとのこと。 話しながら、じっと彼女の顔を観察する。当たり前のことだが、よく見ればチカとは似ても似付かない顔で、身長もそんなに低くなかった。 かくまって欲しい理由については、友達の紹介で知り合った男子に告白されて、家の前で待ち伏せされてたらしい。今までに何度か同じようなことがあって、昨日の夜も、そのことで友達と話していたということだった。 「さっさと断っちゃえばいいのに」 誰もがそう思うことだろう、しかし、思春期の少女の世界には友達付き合いとかいろいろあるらしく――きっぱりとは断れないということだった。
ツカサの話を聞きながら、買ってきた食材を冷蔵庫に収めていく。 ニンジン、豚バラ肉、玉ねぎと入れたところで、ツカサが自分の話をやめて、 「今日はカレー?」 と聞いてきた。 「――あー、うん、そうだけど」 二つの瞳がキラーンと輝く。 「カレー大好き!」 そんなの日本国民の大多数がカレー好きだって、と言おうとしたが、彼女が言いたいこととはズレてるよなと思って押し黙る。
さて、どうしたものか、と丸々とした玉ねぎを見ながら考える。
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(2008/07/02(水) 15:11)
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| 2008.07.01 Tue |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| 髪を撫でながら、頬と、あごと、唇にキスしていく |
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| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
チカの存在感は、別れて数年経った後も、まだこの胸に残っている。 かと言っても、外見的には目立った特徴もなく、背も低く、小柄でショートカットの似合う女の子だった。しかし、その小さな身体に秘められた性格は、今まで付き合ってきた女性の中で、最も熱く、激しく、強か(したたか)だった。
そもそもの出逢いが衝撃的で、当時、彼女は高校三年生だった。 第一志望の大学に合格したら、私と付き合ってください、と一方的に言ってきて、四ヶ月後、見事、そこその名のある大学に受かってしまったのだ。 約束通り、僕とチカは付き合うことになった。
初めてエッチをした日のことは忘れられない。 こぢんまりとした洋食屋で夕食を取った後、彼女は何気に僕の左手を強く握り締めて、ずんずんと先を急ぐように歩いていった。 どこに行くんだよ、とふざけて言ってると、そこはもうピンク色のネオンが輝いているラブホテル街だった。
恋人同士なんだから、そうなっても別に不自然でも何でもなかった。 ただ、彼女から積極的に引っ張られたことで、どこか、自分のペースじゃないような居心地の悪さを感じていた。 お互いにシャワーを浴びて、ベッドに横たわる。 髪を撫でながら、頬と、あごと、唇にキスしていく。
異変に気付いたのは、その時だった。 チカは両手を胸の前で重ねていたのだ。ブルブルと震えるように力いっぱい握り締めている。 ちゃんとは聞いてなかったものの、何となくその態度からチカは経験済みだと思っていた。顔だって少し吊り目だけど、可愛い方の部類に入ってると思うし、高校時代もちゃんと彼氏がいたと言っていた。 だから、初めてだとは思ってもみなかった。
ふと、笑いそうになるが、奥歯に力を込めてこらえる。 相手が緊張してたり、いっぱいいっぱいになっていると、リラックスさせようと微笑みかけても、笑われてると思わせてしまい、逆に萎縮させてしまうからだ。 じっと、見つめて、大丈夫、大丈夫、と呟いて、髪の毛を撫でる。 別にセックスだけじゃなくても、誰だって最初にすることは怖いもの。時間はたっぷりとあるし焦ることはなかった。
しかし、チカが震えていた理由は、そうではなかった。 おまけにチカはすでに初体験を済ませていた――彼女が望まない形で、望まない相手と。
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(2008/07/01(火) 11:52)
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| 2008.06.30 Mon |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| つまり、具体的な仕事の話にならなかったってこと |
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| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
打合せは用意していた資料が要らないほどに、プリミティブな段階で終わってしまった。 プリミティブ? 原始的って意味、つまり、具体的な仕事の話にならなかったってこと。
初めて名刺交換した代理店の営業さんは、そんな感じの人だった。 ユーザーベネフィット、アジェンダ、プロフィットなど英語やら、マーケティング用語やネット用語も駆使して、オリエンテーションしてくれるのだが、いまいち焦点がボケて何をしたいのかさせたいのはハッキリわからなかった。 オリエンは、そそ、説明のことね。
まあ、文脈の流れからニュアンスはわかるものの、やっぱり気持ち悪い。 こういう時、黙って聞くのが、大人ってものだけど、あまりに酷い場合はバカになった気分で、いちいち問い質すことをする。 「すみません、勉強不足で申し訳ないのですが……」 と前置きして、意味不明な言葉を聞くことにする。
この行為の効果はいくつかあって、まずは、言葉の意味や定義をハッキリさせることが出来ること。同じ言葉でも捉え方の違いで議論になったりするからね。 次に、その人が優秀な人か見極められる。もし、その用語を使わずに説明できなければ、本当に理解しているのか怪しいものだ。 そして、こんな質問ばかりしてこいつはアホだ、と思われるかもしれないが、次第に無視できない存在になって、顔と名前を覚えさせることが出来る。
大体、広告代理店なんて、自分たちではモノを創らずに、コミュニケーションがメシの種なんだから、スタッフ相手の打合せの場所でも、常に伝わる言葉を意識しなければならないと思うんだけどなあ。 相手が理解しているかどうか、顔を見ればわかりそうなものなのに――。
打合せが終わった後、書店に立ち寄っただけで、さっさと家に帰ることにする。 どこかで食事を済ませようとも思ったけど、どこも混んでいて、慌ただしくご飯をかき込むよりも、家でゆっくりカレーでも作って食べようと、最寄り駅にあるスーパーに立ち寄る。
いっぱいに膨らんだレジ袋を提げながら、ふんふんと鼻歌を奏でながら家路を急ぐ。 マンションに着いて通路を歩いていると、ドアの前に何かがうずくまっているのが見えた。 な、なんだ? と思って、後ろからそっと近づくと、それが女性のスカートの一部分なのがわかった。
瞬間的に、チカかもしれない、と思った。 ここに来ることはあり得ないとわかりきっているはずなのに――そうだ、今朝、マンションのロビーで郵便物を手に持ちながら、駆けていく女子高生の背中をじっと見続けた理由が、今、はっきりとわかった。 それは彼女の振るまいがどこかチカに似ていたからだ。
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(2008/06/30(月) 09:38)
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| 2008.06.28 Sat |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| なーんて、一人、モノローグ風に呟いてみる。 |
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| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
ひょんな再会は、ただの偶然をまるでずっと前から決まっていたかのような錯覚に陥りさせ、運命という根拠がありそうで無いものを信じさせる――。
サッカーの試合を観ていたのがいつの間にか眠ってしまい、ハッと目が覚めてベッドから跳ね上がる。 時間を見ると、午前八時ジャスト。 はう、ヤバイ、でも、ギリギリセーフだ。 すぐに飛び起きて、部屋を横切りながらジャージとシャツとパンツを脱ぎ捨てていって、浴室に入ってシャワーを浴びる。
ぬるめに設定したお湯を浴びて、今日の打合せに持っていくものを整理する。 忘れ物が多いとは、小学生の低学年の頃から言われ続けてきたことだった。成長するにつれて少なくはなったものの、今でも時々、致命的な忘れ物をしてしまう。 ガシガシと頭を洗いながら、アレとコレとソレの資料は持っていかないとな、と頭の中で指折り数えながらインプットする。
バッグを脇に抱えて玄関を出る。 マンションのロビーを通り過ぎるついでに、郵便受けも見ておく。 先週、アマゾンで注文していた本が入っていれば、行きの道中も楽しいものになるのにな、と思ったのだが、世の中はそんなに上手くは行かないもので、箱の中は請求書とダイレクトメールばかりだった。 その時、背後にダダダッと階段を駆け下りる音が聞こえた。 何事かと振り返ると、夏服を着た女子高生が一階に飛び降りて、勢い余って大きく回りながらロビーに出て来た。 ふと目が合う――昨日のもっさいスウェット姿とのギャップで人違いだと思ったが、目を見ればわかる。その女子高生は間違いなく真夜中の彼女だった。
「あっ!!!」 先に声を出したのは彼女だった。表情がどこか固まっている。 無言でうなずく僕。すると彼女はぺこりと頭を下げて、 「えっと、おはようございます」 と言って、歩幅を狭めてそそくさと僕の隣を通り抜けていった。
僕は届いた郵便物を手に持ちながら、なぜなのか、彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。 人間の視線には、目には見えないビームのようなものが出ているのだろうか、突然、彼女は足を止めて、くるっと後ろを振り返った。 再び目が合うと、彼女は急いで前を向き、文字通り脱兎のごとく駆け出した。 その挙動不審な動きは、野良ネコのそれにとてもよく似ていた。
「そう、まさか、それがきっかけとなって恋が始まろうとは、この時の僕には思いも寄らないことだった」
なーんて、一人、モノローグ風に呟いてみる。 そんなことあるわけないよな、と笑うが、しかし、僕と彼女は数時間後、意外な形で再会を果たすことになるのだった。
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(2008/06/28(土) 17:40)
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| 2008.06.27 Fri |
| FICTION DIARY - 『僕と君と明日のつづき』 |
| ニャガガーと叫んでネコが逃げていくシーン |
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| text by HOSOKAWA matasaburo | 文=細川又三良 |
深夜、生中継で放送されている海外サッカーでのハーフタイム。 明日は燃えるゴミの日なのに気が付いて、部屋中のゴミを掻き集め、ちょっとフライングだけど、マンションのロビーの隣にあるゴミの集積所に持っていく。 パンパンに膨らんだゴミ袋を両手に四つ抱えて廊下を歩いていくと、どこかから、怪しげな話し声が聞こえてきた。
囁くような声だが、時々、苦しそうに息を詰まらせている。 盛りの付いたネコ? と思ったが、それにしては、ニャアーと伸び上がるような声を最近、まったく聞いていなかった。 一体、何の音なんだろう、と不思議に思いながらも、網で囲まれた集積所にゴミを置いて、レバーを回して戸締まりする。
後半が始まる前にさっさと戻ろうとすると、その声はマンションのロビーの裏側から聞こえてくるのがわかった。 そこには倉庫があって、配電盤が設置されて管理会社の掃除道具も置いてあった。少し前に、近くのマンションでぼや騒ぎがあったこともあって、もしや……と考えが頭を過ぎる。
いきなりヌッと顔を出したら、一撃でやられるかもしれないと、静かに近づいて、 「誰だっ、そこにいるのは!」 と声を出した。 僕の希望としては、ニャガガーと叫んでネコが逃げていくシーンを想像していたが、そいつは、スッと壁から姿を現した。
赤いだぶだぶのスウェット上下に、肩まで伸びた栗色の髪、手には携帯を持っていて、こっちをじろりと睨み付けていた。 「……ちょっと待って、いきなり変な人が来て……あ、なんすか?」 その声を聞いて、そいつが女だと言うことがわかった。声の高さやしゃべり方で十代の若い女の子だということも。 変な人と言われてムッとしたが、怒るわけにはいかず、 「いや、物音がしたから、何かいるのかなって思って」 冷静な口調でわけを話した。 「わたし、このマンションの住人なんですけど」 彼女は憤まんやるかたないといった調子で早口で言うと、僕に背を向けて、また携帯電話で話し続けた。 「そっか、いや、ごめんね」 そう独り言のように呟いて、そそくさとロビーを通って部屋に戻った。
その時、彼女の小さな顔が涙で濡れていることに、僕は気付かない振りをしていた。
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(2008/06/27(金) 17:37)
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